inertialの日記

核融合が専門だった社会人の日々の日記

核融合エネルギーのデメリット

 一年前くらいに核融合発電のメリットについてまとめました。

inertial.hatenablog.com

これですね。
この記事ではメリットにしか触れていませんでした。しかし、物事には裏表があるわけで、メリットとデメリットが必ず存在するわけです。それは、核融合エネルギーにも当然当てはまります。

まず、メリットに関して簡単に……

1.海が燃料となり、世界のどこでもいつまでも安価なエネルギー源になりうること。
2.既存の原発のように、何万年の管理が必要な高レベル放射性廃棄物を出さないこと。
3.核融合炉の暴走が原理的に起こらないこと。
4.CO2を排出しないこと。つまりは地球温暖化抑止に貢献できること。

ですかね。

次に本題の核融合エネルギーのデメリットです。

1.大量の低レベル放射性廃棄物が発生する。
2.技術的課題が山積しており、実現までの見通しが立っていない。
3.研究施設が巨大になり、核融合発電実現までの投資が莫大である。
4.水爆など核兵器研究に関連している。

などが挙げられると思います。それではそれぞれを詳しく説明したいと思います。

1.大量の低レベル放射性廃棄物が発生する。
核融合という名前の通り、核融合発電も原子力発電の一種です。当然放射性物質を扱うわけで、放射性廃棄物も出てきます。核融合放射性廃棄物に関して一番問題になるのが「放射化」です。単純に言えば、核融合反応により飛び出す中性子が当たった物質が放射性物質になってしまうということです。つまり、核融合炉自体が放射性物質になってしまうのです。
核分裂炉のように核分裂生成物が生成され、高レベル放射性廃棄物になるということはありませんが、核融合炉は100年ほど管理しなければならない低レベル放射性廃棄物になってしまうのです。

2.技術的課題が山積しており、実現までの見通しが立っていない。
核融合反応を起こす炉心プラズマに関する「炉心プラズマ技術」
真空容器、超伝導コイル、加熱電流駆動装置等の「工学要素技術」
工学要素技術の中で発電技術に関わる「ブランケット・材料技術」
安全なシステムとして開発するために重要な「安全技術」
プラントとしての運転と保守に関する「運転・保守技術」
具体的に列挙するとこんな具合ですね。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/078/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/07/07/1358954_5_1.pdf

上のpdfは文部科学省核融合科学技術委員会 原型炉開発総合戦略タスクフォースで配布された資料です。これによると、磁場閉じ込め方式核融合炉が実用化されるのは2050年代になるそうです。核融合研究自体は1950年代に始まっており、すで半世紀研究が続けられています。つまり1世紀かけて研究することになっちゃうんですよね。
核融合研究が始まった1950年ごろは21世紀には出来ているだろうという予測でしたが、その予測は大きく外れています。ようは2050年に本当に完成するのだろうか?ということです。
(補足しますが、研究が進んでいないわけではないですよ。プラズマの閉じ込め性能は着実に上ってます。ただ、実用化に至っていないのです……)

3.研究施設が巨大になり、核融合発電実現までの投資が莫大である。
現在世界各国が協力して建設の進んでいる核融合炉にITERというものがあります。
ITERの総コストは最終的に4兆円になるそうです。すごい額ですよね。ITERは国際協力の筆頭であることや核融合研究にとって最重要であることを理由に失敗が許されません。なので、設計が非常に保守的になり、ここまで額が大きくなってしまっているそうです。
何にせよ、莫大な金額であるのは間違いなく、これを誰が負担するのかが問題になるわけです。

4.水爆など核兵器研究に関連している。
原子力の源である核分裂核融合はどちらも核兵器に密接に関わっています。核分裂原子力爆弾、核融合水素爆弾に利用されています。原子力である限り、核兵器とは切り離せないのです。

デメリットとしてはこのようなかんじでしょうか。
前に書いた記事もそうなのですが、尻すぼみな記事になってしまっていますよね……