inertialの日記

核融合が専門だった社会人の日々の日記

核融合発電の実用化には何が足りないのか?

理系学生として研究者もどきをしているとよく「何を研究しているの?」って聞かれます。相手を見ながら「核融合」「原子力」「鏡」……を使い分けています。
1回だけ、「原子力」って答えたら、しゃべっていた相手が反原発の方で少し口論になってしまったことがありました。それ以来「鏡」って答えることが多いと思います。誰からも突っ込まれないし、分かりやすいですしね。

核融合」って言うと、「核融合発電っていつ実用化するの?」みたいな質問につながることも多いです。2050年くらいって私は答えています。まだまだ解決しなければならない課題がたくさんあるからですね。

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/kakuyugo/siryo/siryo136/siryo23.htm
10年以上前の資料ですが、あんまり課題は変わってないように思います……
具体的に列挙すると、
核融合反応を起こす炉心プラズマに関する「炉心プラズマ技術」
真空容器、超伝導コイル、加熱電流駆動装置等の「工学要素技術」
工学要素技術の中で発電技術に関わる「ブランケット・材料技術」
安全なシステムとして開発するために重要な「安全技術」
プラントとしての運転と保守に関する「運転・保守技術」
って感じですね。

核融合関連の本とかHPではここらへんを説明しているものが多いです。
このような技術的課題も重要なのですが、私は技術以外の課題に注目したいと思います。

 

核融合発電の実用化のボトルネックになっている社会的要因についてですね。
主にはお金なんですかね。

核融合発電に投資すべき?~トリチウムの放射線リスクを定量的に考える | 科学コミュニケーターブログ

この日本科学未来館のブログで触れられているような話題ですね。

核融合の研究の近くに居ると、最先端で研究している方の声がちらほら耳に入ります。
今活躍してらっしゃる先生方は10年もすれば退官されてしまうのに、後継者が全然居ないから将来が不透明だ
→人材不足
アメリカなどと比べると予算が少ない……設備の充実度でも負けてるし、電気代の値上げで実験自体が滞ってしまっている
→お金がない
ITERが動くのも2020年以降、ITERの成果が出るのは2030年前後、日本でポストITERを作るのは2030年代……
ってことは核融合発電が実現するのは数十年先かなぁ……
→時間がかかる

まとめるとこんな具合ですね。
お金もないし、時間もかかるし、人材も居ない……
なんだか暗くなってしまいます。
学生である(好き勝手に夢だけ見ていられる)私がこんなに暗いと、実際はどんだけ暗いんやろうと更に暗くなってしまいます。

いやこんな暗いことを言ってても仕方がない。
何をすればいいでしょうか?何が問題なのでしょうか?

 

私が考えるボトルネックは「金」です。
金がないから研究が進まない。
研究が進まないから人が集まらないし育たない。
金があれば、時間は買える。
と思うんです。

 

どうして、核融合研究にお金がないのでしょう?
日本にITERを誘致できなかったから。
3.11以降、原子力の予算が減らされているから。しかも、少ない予算の内、大部分が事故対応に使われてしまい、核融合のような基礎研究に回ってこないから。
などが直接的には考えられます。

ただ、私はもっと根源的な部分に問題があると思います。
それは、市民が核融合を必要としていないからです。

 

もし、1兆円のお金があったとして、次の内どこにあげますか?
1 核融合研究 2 iPS細胞 3 スーパーカミオカンデ
4 人文系の研究 5 再生可能エネルギー

上記の質問を(どの研究にも関係のない)一般の方にしたとします。
自分の主観ですが、この中であれば一番1 核融合研究にあげるって人が一番少ないのではないでしょうか。

というわけで、核融合研究を継続するためには、核融合の必要性を理解してもらうのが一番重要だと私は考えています。

一番難しいとこなんですけどね……